【感想】(3月6日追記)8話 さるの巻 TVアニメ『どろろ』 生贄の姉を助けるのは悲しみを知る3人

相も変わらず「言葉」での会話はしない百鬼丸。どうにか喋らせようと奮闘するどろろの姿が健気で可愛い。硫黄の匂いが充満する山中で、生贄となってしまう姉を助けようとする狼の衣を被ったさるに出会う第8話。

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悲しみを知る3人

さるは幼い頃に両親を失うも、山と共に懸命に成長した。しかし時が経ち、野で一人育つさるは迫害を受け、だんだんと人への信頼が消えていった。

そんな誰も信用しないさるにとって母親以外ではじめて優しさを感じた人に出会った。実姉ではないが、さるが姉と慕っている人だ。さるは徐々に姉の優しさに触れて、姉を見て少しずつ少しずつ人間らしくなっていった。しかし、姉が鬼神「残され蜘蛛」の生贄として捧げられ、防ごうとするも助けられなかった。

 

幼い頃に両親と離れ、生みの親以外の優しさや希望を与えてくれたミオを失った百鬼丸とさるは似ている。ミオを失ったからこそ、百鬼丸にとって大切な人を失う悲しみは叫ぶほどに分かっている。寝ているときに涙声の姉を求めるさるに、シンパシーを感じた百鬼丸は鬼神の弔い合戦に強い覚悟を抱いたように思える。

また、過去の話から両親を失ったどろろもまた、さるの悲しみに寄り添うように涙を流す。

さる、百鬼丸、どろろの3人は大切な人がいなくなる悲しみを知っている。そんな悲しみを抱いた3人だからこそ、黒い雲=鬼神「残され雲」は倒さねばならない。

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鬼神「残され雲」

今までの鬼神の中でも遥かに規格外の大きさ。ムカデに見えるが、蛇のように長い髭が龍のようにも見える。そして何より百鬼丸が相手を認識する鬼神が大きいが故に、視界の全てがどす黒い憎悪の赤色が一面を染める。

元々百鬼丸は目を通じての世界を捉えてはおらず、盲目特有の魂の炎の色で識別をしていた。しかし、視界が赤一面の百鬼丸は、はじめて何も世界が見えない状況に陥った初戦では、さるの姉を助けられなかった。

 

鬼神の弱点である日光をどろろとさるの協力によっても照らすも脱皮した皮で黒い雲を展開する。

不貞腐れて石を投げていた百鬼丸の姿は、音で鬼神の位置を掴むための練習だった。矢を鬼神の眉間に放ち、右目を切りつけるも、さらに暴れて手が付けられなくなる。

 

はじめて百鬼丸は自らの意志で声と耳を活用した。

目が見えないなら、魂の炎の色が見えないならどろろがいる。どろろなら声に反応して、自身に声で耳に合図をくれるはず。もう穴倉から出た鬼ではない。自身の身体とさるの姉の敵討ちをとる百鬼丸がそこにはいた。

ある意味では、どろろと百鬼丸の初めての言葉のコミュニケーションだ。黒い雲を突き抜け、太陽を味方にし、切りつける。太陽が照らす鬼神はムカデの形がよく分かるからこそ、最後に自ら口の中に突っ込み、一刀両断。

(2019年3月6日Twitter追記)

 

 

 

届いていた呼ぶ声

ミオを失った百鬼丸の道をたどらないで済んださると無事だった姉。百鬼丸が鬼ではなく、百鬼丸として戦ったことに意味はあったはず。さるの声は姉に届いていた。

そして、嗅覚を司る「鼻」を取り戻した百鬼丸。さるの姉からお礼に貰った花の香りを嗅いで、硫黄の匂いを和らげていた百鬼丸。自分だけでなく、どろろも和らげたいと思い「どろろ…。」と慣れない声帯で喋る。花を渡されたことよりも、自分の名前を呼んでくれたことに心地よい締め付けがくる。シンプルに言えば嬉しい。ずっとどろろの優しさは百鬼丸に届いていた。それを言葉で伝えられたことがどろろはめちゃくちゃに嬉しいはず。

「どろろ…。」の中には、百鬼丸がどろろをいたわる気持ちやミオとは違う家族に似た大切に思う気持ちや優しさの感情が込められていることもエモーショナル。

 

昔から、今回の鬼神のように生贄を捧げるような物語はありまして。今回の鬼神は蛇のようにも見える。有名な作品だと平安末期の『今昔物語』。猿も蛇と同じように描かれていた。しかし今作の「さる」は姉のおかげで人になり、被っていた狼の皮が蛇を倒した際にお供したとされる犬なのではないかと捉えました。

さるから人に、人から姉を守る犬となったさる。さるという名前自体は、さるが咄嗟にいった名前。姉から与えられる名前はどんな名前でもさるにとっては嬉しいことだろう。

12世紀に編纂された『今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)』には、飛騨国(ひ
だのくに=現在の岐阜県北部)と美作国(みまさかのくに=現在の岡山県北部)
の二つの話が収録されている。いずれも若い女性の人身御供を要求する猿や蛇の
神に対して、外部から来た男が犬とともにこれを退治し、その後人身御供の習慣
は途絶えたとするものである。
この話の源流は中国の説話集まで行き着くことも指摘されている。3世紀~6世
紀に成立した『捜神記(そうじんき)』巻19には、現在の福建省(ふっけんしょ
う)の話として、大蛇の神に少女を生贄(いけにえ)にするならわしがあったと
ころ、ある娘がみずから志願して犬とともに大蛇を退治したという話が記されている。

出典:犬飼村の猿神退治 犬寺物語 兵庫県教育研修所6ページから引用

https://www.hyogo-c.ed.jp/~rekihaku-bo/historystation/legend3/html/pdf/011-h.pdf

 

さるの巻

 

 第九話「無残帳の巻」


今回の冒頭の黒い雲のシーンでも白黒で描かれる過去。つまり予告が白黒ということは幼きどろろの過去の物語。父・火袋と母・お自夜とのかつての日々を思い出すどろろは…

7話、今回の8話と心が休まる回が多かったので、心を苦しめるレースに走り出されるように思う予感。それがあるこそ、本質や人が描かれる訳ではありますが…。

 

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