もう7月です。環境の変化に息ができないほど押し寄せてきて、読書記録を寝かせてしまいました。他にもいくつかの記事が途中でバテて、お蔵入りすることが多々ありましたという言い訳をここでしておきます。リズムを取り戻すためにも書きやすいこちらの記事から。
そんなこんなで今回は5月・6月分を併せておすすめ本から紹介します。
今回のおすすめ本

・かがみの孤城
感情の城と言っていいほどに、感情描写が丁寧で引き込まれる。
学校にいけない。そんな複雑な事情を抱える7人の中学生が不思議な鏡の城に招待される。そこでは9時から17時までの間に自分の部屋の鏡がゲートとなっている異世界の城。締切は学校のセメスターに合わせて3月まで。章分けも月ごとに分かれている。7人の心情や城にある願いが叶う鍵を中心に物語が進行し、苦しい描写が鮮明で本当に心が苦しくなってくる。
どこか違和感を感じる会話や物語の展開や怒涛の伏線回収に読み進める手が止まらない。特に全員が複雑な事情を抱える中でも、なんとか前に進むシーンに強く惹かれる。ラストのある言葉で本作品のピリオドが打たれるのだが、カタルシスが強く泣きそうになる。(泣きました)
最近はマンガ化もし、いずれは映画、アニメといったメディアミックス展開がされそうな予感がします。早めに原作を読んで欲しい一冊です。
2019年5月の読書記録
・月光ゲーム Yの悲劇'88
火山の噴火による自然が生んだクローズドサークル小説。読者の挑戦が解決編前に差し込まれることからも、本格ミステリの体をなしています。個人的には登場人物が多い感覚を持ちました。有栖川有栖という作者と同じ名前の登場人物が登場するのですが、なんとなくですが西の神木隆之介というキャラクターでイメージがついています。
・Googleの哲学
あったらいいなというサービスのため、自身が欲しいから作るという単純かつ清潔な願いでがgoogleの本質であって。特に今流行しているニーズではなく、n年後に流行しているウォンツ(本当に自分がほしいもの)のアイデアを言語化して、物事を細かく考え、実現に地に足をつけているのがすごい。すごいという単純なことを推し進める姿勢が最良でない、変化する最良のβ版というのも見習いたい。本当にGoogleワールドがGoogleユニバースになるのではぐらいに生活に浸食していて恐ろしさもあるのだが。
・東京奇譚集
実は村上春樹の作品を読むのが初めてだった。それはなんとなく読まず嫌いじゃないけれど、僕の中では高尚なイメージがあって。この短編集を読み終わると何ともいえない不思議な感覚で。特に『どこであれそれが見つかりそうな場所』は推理小説の作風の皮を被った違う何かのようであり、その何かをいろいろ想像するのが楽しいんじゃないかな。読んで良かった。
・九十九書店の地下には秘密のバーがある
昼は本屋、夜は地下でバーを営む九十九書店。そこにある日訳あって会社を辞めた長原佑が訪れ、ひょんなことから協力関係になったマスターと長原が日常の事件を解決する物語です。僕がこの本を購入した理由としては、美味しいお酒という甘美な言葉に惹かれました。4章で構成され、1章はお酒をメインとして扱う章だった故に、今後の章もお酒を絡めると思っていると肩透かしを食らいます。メインはお酒ではなく、日常の難事件を解決するということなのかなぁと。お酒の描写は飲みたくなるので、その章の酒を飲みながら読むのが良さげかもしれない。お酒と共に。
・グラスバードは還らない
J国の漣と上司のマリアとのバディシリーズの第3作目。バディ物というよりはこのシリーズ恒例の叙述トリックや異なる時間軸を章ごとに変えることで、事件の全貌が徐々に明らかになっていく。そして、今回はシリーズ恒例の2つの時間軸同士の間隔が短く、今まで以上に緊張感がある雰囲気で物語が進行していく。犯人は誰なのか。トリックはこうではないかの考えが思いつくものの、物語が進むことによる読者の思い込みがその考えを消滅してしまい、作者にやられてしまう。ただ、最後のコロコロと変わる〇〇のネタ明かしには少し疑問があるが、良い読了感を味わえる作品。
・タイニー・タイニー・ハッピー
最初はタイトルだけで選んだ本でした。数あるどこにでもありそうな恋愛を切り取り、視点を章ごとに変えて、同じ出来事でも違って見える。それは現実でも、同じ出来事であっても、人それぞれの考え方や受け取り方が違うように。だから、恋というか愛というかの悪い部分も良い部分もありそうな現実感が漂う描写が自身にも当てはめてしまいそうになる。印象的な章はウォータープルーフ。怖い。怖いな。

- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/12/25
- メディア: 文庫
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・恋は短し歩けよ乙女
何より表現が独特だと思う。まるで脚本のト書を読んでいるようでいて、文学雰囲気感があって好みがわかれそうな作品。
物語としてはお酒と未知の体験を楽しむ黒髪の乙女。偶然を装い、お近づきになろうとする冴えない先輩。同じ出来事を両者の視点を交互に変えながら物語は進んでいく。 最後に二人はカフェで待ち合わせをする。その際に繰り広げられた会話そのものが、本作の内容であり、だからこそ交互に視点が入れ替わるような小説になっているのではないか。読者は二人の会話を見ていた。アフターストーリーがアニメ映画の特典であるらしいので、補完したい。
アニメ版も見たのですが、だいぶ小説と時系列が違っていましたが、詭弁踊りを
見れるだけでも価値ありです。
夜は短し歩けよ乙女(PRIME VIDEO)
・恋文の技術
森見登美彦の別作品。さすがに好みではなかったので別作品ならどうだろうかということでこの作品を手にとった。
こじらせた大学院生の守田一郎がいろいろな人に送る手紙を通じて、読者がその出来事を想像するという少し変わった形式。個人的には、『夜は短し恋せよ乙女』の文体に慣れないとこがあったのですが、こちらのが好きかつ読みやすかった。信念ある馬鹿らしい守田君は好きで、全力で逆方向に突っ走る姿は読んでいてい面白い。
追伸. 家庭教師に恋する少年や別作品の『ペンギン・ハイウェイ』といい作者はおねショタ物語大好きなのでは。間宮少年もアオヤマ君もおっぱい大好きだけど、それは正義だからしょうがない。森見登美彦やアニメ監督の細田守も趣味を作品に走らせる傾向があるような気もする。

- 作者: J・モーティマー・アドラー,V・チャールズ・ドーレン,外山滋比古,槇未知子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1997/10/09
- メディア: 文庫
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・本を読む本
ここでいう本の9割は教養書をいかに自分の血肉として読めるかの方法とそこから得られる知見について書いてある。だから、本をあまり読まない人向けのタイトルと思いがちだが、一種の研鑽のための本というスタンスで読むのがいいかもしれない。
現代的なタイトルをつけるなら『自己啓発をする人に向けた本の読み方』だろうか。 ただ発行は1978年であり、40年の月日が経過している。だからこそ、今の時代や自分に合わせた読み方を取捨選択をするのは必要だと思う。
2019年6月の読書記録
・孤島パズル
1作目の月光ゲームよりも、本作が好き。島そのものがパズルになっていて、舞台設定からして大好きすぎる。有栖君はワトソン的立ち位置なのだが、美味しい役どころで大変面白いし、魅力的だ。やはり推理小説に地図や略図が掲載されている作品は解きごたえがあるので好きしかない。今回は犯人当てゲームとしては作者に勝利したので、次回作の『双頭の悪魔』にも挑む予定。
・エクサバイト
人の一生を記録するデバイスが身体に埋め込まれ、全てが記録される時代の近未来的なお話。 おでこにギリギリ視認できる程度の黒子のサイズのカメラが埋め込まれ、そのデータをどう使うか、利権争いを巡る物語に某会社が頭によぎりました。おでこにカメラって、仏ですよね。千里眼的な意味合いもあっておでこなのか。物語を読むと言うよりも近い未来起こりうるであろう世界を見せて、読者に警鐘を鳴らしているような感覚に陥る。
・美食亭グストーの特別料理
食の描写が読めると思い買ったら、ホラーチックな食事小説だった。肉まんだと思って食べたら、あんまんだったような食い違いが起きる。そのお店は普段、美味しいをテーマに料理を提供する表の顔。裏の顔は闇を抱えたり、伝説の肉を求めたりと奇々怪々な客が地下で提供される異様な食事こそが真の顔。食べてる人が自身の闇に立ち向かう食事は、それこそ地獄かもしれない。個人的に若い大学生の口調がある意味でらしいのだが、くどさも感じるのが玉に瑕。

明智小五郎事件簿1 「D坂の殺人事件」「幽霊」「黒手組」「心理試験」「屋根裏の散歩者」 (集英社文庫)
- 作者: 江戸川乱歩
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2016/07/01
- メディア: Kindle版
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・明智小五郎事件簿 1 「D坂の殺人事件」「幽霊」「黒手組」「心理試験」「屋根裏の散歩者」
髪をかきむしる名探偵が再び目の前に表れた。小学生の頃に読んだ推理小説の一つに怪人二十面相と戦う探偵がいた。それが本作の明智小五郎だ。モジャモジャの髪に浴衣を着て推理する彼に大人になってから会うとは思わなかった。
シンプルに読んでいて面白い推理小説作品集になっており、その中でも『黒手組』が好きです。江戸川コナンや古畑任三郎的な日本探偵の要素の原点の一つでもある、何気ない会話から事件や犯人をじわりじわりと追い詰める姿が脳内で描きやすい。「屋根裏の散歩者」は番外編のような立ち位置だが、天井裏から人を観察し、いずれは殺意まで抱いてしまう人物が面白い。僕の屋根の上には誰もいないと信じたい。
来月の予定
5月は10冊、6月は5冊でした。6月終了時点で44冊の本を読みました。1年間で100冊の壁は届きそうで高いです。 残り56冊を6ヶ月で計算すると
今月は読者もですが、記事のリズムを取り戻したいです。その一環として今読んでいる道尾秀介著の新作『いけない』の感想記事を書いています(という体にして、書かないといけない状況に持ち込む)今読んでいるのですがミステリミステリらしく面白いです。