【感想】頼りない翼で飛んでいる選ばれし子供たちへ 『デジモンアドベンチャー ラストエボリューション 絆』

デジモンアドベンチャーという感情をネットの海に探すかつての選ばれし子供たちへ

 

ぎこちない翼でも飛べるはず。そう信じて今までやってきた。

でも無限大な夢のあとではやるせない。

僕らはいや、「あ~昔は良かった。」と過去を郷愁する。それは僕らが選ばれし子供よりももっと上の世代から未だに聞く言葉の一つだろう。

だから、リメイク作品や昔の作品を今の技術で描くことが多いのかもしれない。

今回の『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』もその例に漏れない。

 

劇場にいる人々はかつてデジモンというコンテンツを見てきた。見終わった今、デジモンを好きでいて良かった。

そう心から思えた。アグモンや太一に出会えて、冒険してきて良かったって。幼稚園児なのに太一と同じ色のスキー用のゴーグルをねだったり、太一と同じ髪型にしたいと当時の床屋さんを困らせたりしたそんなことで成長してきてよかった。

それと同時にホッとしている自分もいる。それはコンテンツとしても昔こそが最高という懐古主義になることは過去作品の続編ではよくあることだからだ。昔に触れることが禁忌ともとれる思い出が深いほどに。こういった作品はどうしてもファンへのサービスが過剰になることもある。

あなたは『デジモンアドベンチャー tri(トライ)』という作品を知っているだろうか。今作を見た子供たちなら一度は耳にしたりしたはずだ。僕の一感情を表すと、なかったことにしたい。そう思うほどに過去への当て擦りがすごい作品だった。部分で見ると良い部分もあるということを少し添えておこう(個人的には3章)。

 

そんなこともあってか、懐疑的な目線から入っていった。しかしそんな心配は不要だったのかもしれないと僕は思う。僕らが驚きや心揺さぶられる感情体験はまさにデジモンアドベンチャーだったのだから。

 

以降、本作品の根幹に関するネタバレを含みますのでご注意ください。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつての栄光という蝶こそが敵

声を大にして言いたいのは、過去が至高ともいえる領域を公式側がぶち壊し、僕らが過去の栄光よりも未来を選ぶアンサーを叩きつけた点が本当に良かった。

後半過去の記憶の中で栄光にすがるようなことで支配しようとしていた今作の敵でもあり、子供の心を純粋にまで持ってしまったメノア・ベルッチ。

それは、僕らデジモンを見ていた人たちと同じ立場だった。

カラオケにいけば、Butterflyを歌い、アポカリモンとの戦いを見ながら、ワープ進化最高という形式的なお約束までと言える過去への懐かしさ。

しかし、本当にデジモンを僕らは覚えているのか?

僕は正直言うと具体的には覚えていない。

覚えているのは断片的な進化シーンや美化されたシーンといったまるで壊して欲しくない最高な思い出の記憶だけだ。究極的に言えばそのネバーランド(今作の敵の人工デジモンであるエオスモンが作った結晶世界のこと)でパートナーデジモンとかつての幼少期の頃に戻った選ばれし子供たちと同じなのだ。

過去が良いという理想郷に閉じこもるだけの進化もしない、現状維持とでも言えばいいのだろうか。いや、そんなことは現状維持でもなくただ、ゆっくりと退化していくだけだろう。

先に述べたが、こういった過去作品の続編についてはどうしてもファンサービスという名の無理にでも名シーンの再現のようなn番煎じのようなストーリーになりがちな印象を抱いている。だが、今作はやり切った。ファンに媚びるのでなく、敬意を持って過去の最高を、塗り替えたと思う。今あらゆるコンテンツが蔓延る中、過去作の威光に頼るのでない、常に最高を更新し続けることで新たなページを足すことに成功した。

 

もちろん所々に尊敬あるオマージュがあったのはもちろんだ。デジモンがテレビ放映前の『デジモンアドベンチャー』の入りがボレロの曲と同様に今作も物語がはじまり、またアドベンチャーに行けるんだという高揚を感じました。加えて最初の敵デジモンが同作品におけるパロットモンというのも憎い。

やはり、気づく人も多いどこか下地にぼくらのウォーゲーム要素が。デジモンによる現実世界への侵攻や電脳世界に入ると赤い線で縁取りがされるデジモンやパートナーたち。

 

個人的には全てをひけらかすのでなく考えればそう読み取れるよねという描写が多かったのも今作の良かった点として挙げたい。

 

世界設定

トライの惨劇という認めたくないが、一応この作品ではtriがあった世界線らしいことは確かなようです。(ネバーランドにて望月芽心とメイクーモンのワンカットや今作のメノア・ベルッチが太一たちに発言している何度も世界を救ったセリフから) 

デジモンが現実世界にいてデジモンを隠そうとせず、日常生活が営めているのにはデジモンという問題が起こるというのも、あるが単純にデジモンとパートナーを結ぶ選ばれし子供たちの母数が増えたからだと思う。

そもそも太一たちの選ばれし子供たちとパートナーデジモンは一年ごとに約2倍ずつ増えていく設定がある。02最終話の太一たちが大人になった2025年~2030年のどこかでは全世界の人々にパートナーデジモンがいることになる。

光子郎がデジタルワールドと人間世界のハブ的な役割を担っていたり、02の京が選ばれし子供たちのコミュニティを運営していることが今作のパンフレットから判明している。

それ以外にも最初の戦闘が始まる前の中野駅の人々をみるとコロモンのような携帯キーホルダーをつけていたり、太一が最後卒業論文のテーマについて書いた文章をみると、デジモン問題というのは大学でも取り扱うような社会的な問題として認識されていることが読み取れる。

 

 

最後の進化と別れ

子供だったころからずっと同じままではいられない。

そんな当たり前を太一とアグモン、ヤマトとガブモンに焦点を当てられていた。かつて少年だったのが、ホルモン屋でお酒を飲み、空は母と同じ華道に邁進し、丈は大学5年生となり医学の研修医に、ミミは通信販売を営み、加えて、ビールや喫煙室といった大人にならないとできないものが要所にカットとして否が応でも大人という現実を突き付けていた。

 

そんな大人になる中でパートナーデジモンとのパートナー解消問題という絆に関わる事態にどう直面するか。だが差し迫った危機にも対処しなければならない。その危機がかつて僕らの栄光を冠する蝶をモチーフとしたデジモンであるのがまた皮肉だ。

 

みんなが最強のデジモンであると思うオメガモンの見るに堪えない姿になり、心が痛む中、敵であるが似た苦しみを抱いている間違っているけど、純粋なメノアのことも救い、みんなを助けたい。前に進むために太一とアグモン、ヤマトとガブモンは最後の進化を迎える。

 

もちろんデジモンが劇場で動くシーンや新たな進化形態に心躍ったのは確かだ。(個人的には人間っぽい姿に進化するなら、アグモンと太一、ガブモンとヤマトが一体化した進化のが良かったんじゃないかなと思う)

 

でも、それよりも最後の進化前のアグモンと太一の会話に本作品のクライマックスがあると思う。

アグモン

「成長していく、変わっていく太一たちの姿を見ているのがすごく嬉しいんだ」

 

お前、お前…アグモン!!!!泣かしにくるなよ…そんなのズルじゃん。

序盤のホルモン屋の会話で「アグモンたちは変わらないな」といった太一。太一も気づいたけど、アグモンたちもみんな成長して、変わっていくんだ。みんなずっと同じなんてありえない。成長して変わっていくんだ。

ガブモンもさらに変わっていくことに対して、良いこというなよ。隣りのおねえさんも僕もスクリーンが見えなくなるぐらい感情が揺さぶられるんだよ。

まるで太一だけじゃなくて、劇場に向けられた僕らに向けたセリフのようにも感じて、そこからの進化は100憶点だった。

 

ある意味デジモンというコンテンツが一度ここで無印という歴史に公式がピリオドを打つことで、今後は威光だけに頼らない、最高を更新し続ける進化という選択を取ったようにも思えます。 

 

ちゃんとしたお別れの言葉は既に交わしたから、ラストのアグモンが消えるシーンでの会話は今や未来への会話だったのだと思う。太一とアグモンは「明日どうしようか?」と言った時点でもう言葉を交わさずとも気づいていたんだと思う。二人の絆は例え離れても、常に進化し続けているのだから。

 

小ネタや伏線

・なぜ空は最終決戦にいなかった?

アグモンと太一たちが離れてしまった後に、デジヴァイスが黒くなったのを見て、同時に空とピヨモンが無印組の中で一番早く別れてしまっていたことが分かるんですよね。最終決戦の時も空は行かなかったんじゃなく、行けなかった。空が戦闘中に祈っているシーンをよく見るとデジヴァイスが同じ黒色でした。

実はエンディングをみると02組やタケル、ヒカリはパートナーデジモンとの2ショットなんですけど、丈、光子郎、ミミは自分たちの目指す夢に向かって頑張る姿のカットだけなんですよね。あの決戦以降、ゴマモン、テントモン、パルモン、と近い未来別れたことが分かります。

 

・エオスモンは実はかつてのメノアのパートナーデジモンのモルフォモンのデータが一部混在していたのでは?

アグモン 勇気の型、ガブモン 友情の型に倒された後、メノアに向けて微笑んだことやエオスモン誕生はモルフォモンを何度も復活させようとしていたデータに謎のオーロラがきっかけで生まれたこともあるので、入っていると信じたいです。

最後にも書いたのですが、メノアがやってきたことは方向性だけが誤っていただけで、パートナーデジモンと再会するという道には進んでいたんじゃないかなと思います。

むしろ、あの謎のオーロラなんだったのか。今作では分からかった…

 

・これtriが本当にやりたかったことだったのでは?

トライ君、本当はこういう感情を揺さぶる奴がやりたかったに違いない。(推測)

当初tri公開時の何かの公式インタビューで、実はこの年に公開するのには意味があるんです。選ばれし子供たちの数が重要なんです的な感じのこと言っていたので、今作の選ばれし子供たちが日常レベルで紛れ込んでいる世界のことも含まれていたりするのだろうか(頑張ってソース調べましたが、URLがなかった。もし知っている人いたら教えて欲しい。)

 

・ワープ進化のウォーグレイモンやメタルガルルモンなぜ出なかった?

 最強のオメガモンになるのって基本的にはワープ進化した究極体がピンチにならないといけないじゃないですか。今回そのオメガモンもピンチになるから、せめて出さないという選択肢を選んだんじゃないのかなぁと。

でも、今作の進化バンク今の技術での当時の再現してたの良きでした。

 

・光子郎優秀すぎない?

今作って割と説明省いているシーンあるんですが、なんとなくスマホ型デジヴァイスにてしても、選ばれし子供たちが自警団のように守っているのもまぁ光子郎が上手いことサポートしてくれるのかなということで済みそう感が強い。

説明してくれたらそれはそれで嬉しいけど、時間や登場人物の多さもあるから思いっ切り省いたのは個人的にはありだった。 

 

・02のデジモンハリケーン上陸のウォレスがエンディングでいましたよね?

いた!!!!!!テリアモンとロップモンも!!

他にもまだ知らないだけでネバーランドや各国の戦いのデジモンやパートナー探せばいそう。02組のワチャワチャ感久しぶりに見ると作品の合間のアクセントとなって、個人的には好き。ワームモン、お前賢ちゃん大好きだな。ほのぼのするよ。

 

・02ラストには繋がるの?

細かいとこ言えば整合性が取れない部分もありそうだけど、僕は繋がると信じたい。今後も選ばれし子供たちとパートナーデジモンが増え続けるのであれば、そのニーズに応える場所と仕事ができる訳だし。

デジモンアドベンチャーという作品自体を小説にしたタケルは、今作のラストエボリューションについても執筆するのだろう。最初のキーボード入力の画面もタケルのPCっぽい感じありますよね。

まぁヤマトの最後のロケットのカットの無理矢理挿入感はすごいけど。

 

 

最後の進化じゃない、未来への進化という再会

劇中パートナーデジモンとの解消問題にぶつかるアグモンと太一の元にゲンナイが訪れるシーンがある。そこでは選ばれし子供たちがなぜデジモンを進化させることができるのか。無限大な可能性を選び続けることができるエネルギー。それが進化の元になると。つまり、大人になるとパートナーデジモンと別れがくる。

だから、ゲンナイが言った「無限大な可能性を持つことができれば…」セリフにも意味があるはず。太一は男子トイレで情報共有のためにヤマトと光子郎にゲンナイと会った報告にパートナーデジモンとの解消について対策はないと発言している。そのときの太一自身が過去の自分のように無限な可能性を持った選ばれし子供ではないと思っていたことにある。

しかし選ばれし子供たちから、選んだ一人の人としてならパートナーデジモンと再会はありえるはずだ。それはもちろん最後の進化という未来への進化が繋がる可能性を示唆している。

選ばれし子供の頃の何にでもなれる無限大な可能性というのであれば、選んだ可能性を発展させた先には、無限大な可能性があるんじゃないのか。

あの最後の進化に使った無限大な可能性というエネルギーは選ばれし子供たちでない。選んだ一人の人としての無限大な可能性が起こした未来の進化なんだ。

無限大な夢から選択をした人が、その夢を発展させるのであればそれは、無限大だろう。

またちゃんとした形で会ういつかの明日へ。アグモンにカキ氷を渡すためにも、無限大な夢のあとでも、自らが選択した夢を実現させるため僕らのアドベンチャーは進化し続ける。

 

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