【感想】(2019年2月24日追記)映画 『THE GUILTY/ギルティ』 聴覚と思考の2つの世界が見せる傑作

「人間が聴覚から得られる情報はわずか11%」そんなキャッチコピーに惹かれた。

電話からの声や音で物語が展開していくサスペンス映画。試写会組のネタバレなしの感想がTwitterのTLに流れ込んでくる。どの感想も「頼む。見てくれ。」という強い思いを感じたこともあり、見に行った、いや体感した『THE GUILTY/ギルティ』。

 あらすじ

緊急通報指令室のオペレーターであるアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)は、ある事件をきっかけに警察官としての一線を退き、交通事故による緊急搬送を遠隔手配するなど、些細な事件に応対する日々が続いていた。そんなある日、一本の通報を受ける。それは今まさに誘拐されているという女性自身からの通報だった。彼に与えられた事件解決の手段は”電話”だけ。車の発車音、女性の怯える声、犯人の息遣い・・・。微かに聞こえる音だけを手がかりに、“見えない”事件を解決することはできるのか―。

出典:映画『THE GUILTY ギルティ』公式サイト|2月22日(金)公開

 

 

音を見る映画(ネタバレなし感想)

音からの想像を重ねるほどに面白さが加速する。

観客全員が聞いている音は同じだ。しかし、音から想像される情景は、見た人によって各々の情景は違う。だからこそ、この作品では、無限の解釈ができる。

観客は主人公のアスガー・ホルムと同じように、電話相手はもちろんその向こうにいる誰かの声、雨音、すれ違う車の走行音やサイレンの様々な音から事件を読み取る。そして、何より”沈黙”という無音ですら事件を彩る。僕たちもアスガーと同様に事件を解決するオペレーターとなり、犯人を追い詰めるのだ。音が中心故に、映像のワンカットの一つ一つからも事件を読み取ろうと脳がフル回転する。このように思考を巡らせることもあってか、推理小説を読んでいるという感覚が楽しくてたまらない。

オペレーターのアスガーと一体となったあなたは目に見えない事件を解決できるだろうか。

   

以下、本編に関するネタバレがありますので鑑賞前の方は見ないようお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音と先入観が生んだ思考世界の叙述トリック映画

当初は、誘拐されたイーベンが危機的状況ということを伝える恐怖を感じる声。その状況から警察が赤ん坊の死体現場を伝える電話は元夫であるミケルが殺害したようにも思えてしまう。メタ的ではあるが、予告映像やあらすじを知っていた人からすると女性が誘拐されることは周知の事実だったことも。

また、アスガーが元現場の上司や昔の職場の相棒ラシッドとの電話の中で、繰り返えされる「明日の件」。いや、序盤で個人携帯に着用があった記者から追求もされたことが、アスガーは純粋な警察のオペレーターじゃない、もしかしたらこの事件に何か関わりがあるのではないかと想像を膨らませることも。

 

ミケルが赤ん坊を殺害したのではなく、イーベンが本当は殺した張本人という真実に、僕はラストまでアスガーと同様に勘違いをしたまま事件が進行した。 

徐々にイーベンとの会話に違和感を感じ、鼓動が早くなる。「いや、もしかして…」という今までの想像と真実の点が全て繋がるとき、最大のどんでん返しの驚きが心に強く響く。

 

※叙述トリックとは視聴者の先入観を利用し、誤った解釈(ミスリード)を与えることで、事実が隠されたり、その事実が明らかになったときの衝撃を与える手法。アンフェアだけどフェア、フェアだけどアンフェア。

 

f:id:boku-shika:20190223000043j:plain

 

主要登場人物の概略

①アスガー・ホルム
ある事件をきっかけに、オペレーターとなった主人公
妻と別居中

度々物や人に当たりがちな性格。

 

②イーベン
誘拐された母親(実際は本人が赤ん坊を殺害、ラストまで自覚なし)
精神病患者

 

③ミケル

イーベンの元夫
暴行罪持ち

赤ん坊を殺害した誘拐犯(実際はイーベンを精神科施設に)

この暴行罪もアスガーに「国も行政も病院も助けてくれなかった…」と怒りをぶつけたり、家に新品のおもちゃもあったことから本当はイーベンから娘たちを守ろうとした結果暴行罪になってしまったのでは…

④マチルデ
イーベンとミケルの娘

アスガーと電話をした長女

 

⑤ラシッド
アスガーの元職場の相棒であり、秘密裏にアスガーの現場の手足となった。
明日の裁判で相棒の証言を言う口裏合わせが不安でたまらないが、もう嘘を重ねるしか方法がないことも気づいているように思った。

 

音から生まれる思考世界

誘拐の電話前から、オペレータールームには、薬物常用者や自業自得で警察にかけてくる人といった通報がさも当たり前であり、アスガーの周りの仕事のキーボードの打鍵音や電話の会話の「音」がもう一人の主演であることが伝わる。

その音を僕たちは映像よりも細心の注意を払って聞かねばならないと無意識に自覚していく。下手したら音に集中するあまり、目をつぶって感覚をより鋭敏にしたくなるほどに作品に惹かれていった。

 

印象的なのは、アスガーが弟?妹?(どちらか忘れましたごめんなさい)と一緒にいれば寂しくないとマチルデにアドバイスし、切り刻まれた赤ん坊と一緒にいたマチルデが警察に保護される場面がある。

音のみだと赤ん坊は無事ではなく、死体として発見されたという事実だけ。

だが、直前にアスガーが安心させるためにしたアドバイスが裏目に出てしまうし、マチルデの洋服が赤い血で染まった情景が、「会話」を通じて、脳に鮮明に映像化される。スクリーンの映像と音を通じた映像の二つが同時に結びつくことで、よりアスガーとのシンクロさが増す。

 

 

閉め切ったブラインドと真実

映像の効果もまた面白さを引き込んでいる。

最初はオープンスペースで、仕事をしていたアスガー。ミケルの車のナンバーを断片的な情報を繋ぎ、突き止める優秀さ。「この人なんだか陰がありそうだけど、デキる人なんだと」思い込んでしまう。

本作品の最大のミスリード(ミケルが赤ん坊を殺したと思ってしまう)から、電話する場所が転換する。ブラインドを閉め切った個室のオペレータールームのように、僕らの考えも思い込んでしまっていたことに、上映後に気づいた。

 

アスガーが、若者を殺す必要がないのに殺してしまった真実。まさにマチルデが赤ん坊を助けるために見えた幻覚の蛇と一緒だ。

蛇はアダムとイブの物語でも、善悪の禁断の実をイブに唆し、最後にはイブが実を食べ、エデンから2人は追放される。つまり禁断の実を食べる=罪を犯してしまうと取れる。

そして、アスガーとマチルデだけでなく、誰の心の中にも罪を犯すように唆す蛇がいる。

 

 

最後の電話相手は誰なのか

ラストカットにアスガーが自分の携帯電話でかけた相手は誰なのだろうか。この作品自体解釈の多様性が面白さの根幹なことから、ある意味誰にかけても、正解かもしれない。この考察こそ、楽しみの一つであり、映画の心地よい余韻にも繋がるのが一種のエンタメが大好きだ。

 

参考程度に、アスガーがかけたかもしれない人物を記しておく。

 

①アスガーの妻パトリシア

イーベンを自殺から、食い止める際に、自らの罪を告白したアスガーは、「僕はわざと殺したが、君は違う。君のは事故だ マチルデもミケルも君を愛している。まだ愛している人がこの世にいるんだ」と声をかけた。アスガーもまたイーベンと同じ人を殺めた境遇から、自らに問いかけているようにも僕は捉えた。相棒に偽証の口裏合わせや鬱憤をはらしたくて、殺してしまった自分を愛してくれる人はいるのか。

そんな自分にとって愛している人に、贖罪ともう一度やり直す未来のために電話をかけたように思えた。

 

②冒頭に電話をかけてきた記者

自らの勘違いによって、過去の故意に若者を殺害してしまった事件の繰り返しをしてしまったアスガー。ラシッドに偽証するのを辞めて欲しいと説いたが、ラシッド自身も嘘を重ねてしまっているため、今さらできないと。その後、マチルデに自分の罪の告白をし、橋からの投身自殺を食い止めることができた。

罪の告白は、さっきまでの自分なら早く元の職場に戻りたくて躍起になり、オペレーターの仕事も蔑ろにしていた。罪の告白を通じ、自身の罪に向き合い、やっと受け入れることができた。

 

だが、ラシッドに罪を告白したいといっても、ラシッドの考えは変わらないとアスガーは感じたように思えた。このままでは明日の裁判では口裏合わせをした証言で、また罪を重ねてしまうと考えたアスガー。自らの真実を公開することが必要だと考え、記者に電話をかけた。

 

電話をかけたのが妻のパトリシアと記者にせよ、自らの罪を数え、受け入れたアスガーだから『THE GUILTY/ギルティ』という題名なんだというタイトル回収に気づいたとき、「あああああだから、このタイトルかぁ」とぞくぞくしました。

 

実際に、上映中ヘッドセットでより体感できるの羨ましいな。 2回目見に行くなら、ヘッドセット持参するだけで、より臨場感が味わえそう。映画館という閉鎖空間もまた、ブラインドを締め切った個室であり、パソコンのディスプレイが、スクリーンに当てられているのも、没入感が増す。映画館で是非見てほしい作品。

eiga.com

 叙述トリックが好き方はこちら

www.bokuto10.com