2024年の面白かった本作品 ~2024年読んで良かった小説 3編〜

ネットの海でのある言葉が好きです。

「今見た作品がその人にとっての最新作」

過去の名作も1年前に放送・公開・出版されたものであろうと、その作品に接した瞬間こそが、その人の最新作なんです。初めてみたときには、膝を打ちましたね。

なんだそのウルトラ前向き思考〜〜〜〜〜

これで過去の名作や少し前に公開された作品も僕にとっては、市場で水揚げされた魚のように踊り狂ってもいいんだよ。あの名作もみてないんですか〜〜というマウントも気にせず、好きな"自分にとっての最新作"を浴びていこうぜ〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ということで今回は今年出版された本に限らず、2024年で読んでいて面白かった作品を3つ選びました。良ければ、あなたにとっての良き最新作を教えてくれると来年の見る・読むリストに加えたいと思います…!!

 

 

その1

『海の底』

著:有川浩

 

5年前ぐらい前、オフ会の際にフォロワー氏から教えてもらった作品。

当時の記憶を探るように脳内ダイブすると、「シン・ゴジラ好きなら、『海の底』良いですよ〜〜〜」と言われたのはずなのだが、誰かが思い出せない…

かずひろさんか、結騎さんのどちらかだった気がする。それとも両方か…

そんな思い出は一旦置いといて、なぜ5年越しに海底から記憶が呼び起されたのか。

それは一人カフェで作業をしていたときの隣のテーブルから、有川浩談義が聞こえたのがきっかけでした。

 

「『図書館戦争』や『塩の街』のミリタリーの描写さることながら、年上年下の職場恋愛チックな描写いいよね〜」と。その後、色々な作家さんの話を片手間に聞きながら心の中で、僕もうんうん、分かると頷きながら。そういえば有川浩さんの作品を最近読んでないなぁと思い、脳内データベースを探ったところ、『海の底』が出てきたのだった。

 

横須賀米軍基地に突如、巨大な甲殻類のザリガニが大量発生し、命からがら潜水艦に隠れこんだ若手海軍候補生2名と心身ともに成長段階の高校生・中学生・小学生の混合集団は籠城作戦を強制される。外野から潜水艦を助け出そうとする動きや米軍基地海域内に停泊していたこともあり、政治的なやりとり、浜辺から怪獣を出さないようにする警察と各視点が描かれており、一気に読ませてくる作品です。

大量発生する3-5m程度の甲殻類殻化物(ゴジラみたいに大きくなく、大量にいるのが厄介)。怪獣という非現実以外は、自分が戦艦内や会議室にて自衛隊出動はどうすれば活用できるか頭を抱える登場人物だったのかの現実チックさがある。怪獣という幻想と我々読者がイメージしやすい人間模様が、相乗効果により作中世界が具体的に脳内構築される。これがこの作品を読み進める手が止まらないスパイスのひとつなのだと思っています。

 

大人からみると未熟な小中高生のストレスが高まる中、潜水艦内での衝突や喧嘩を通じて成長する一面。一方外部ではどうすれば巨大甲殻類を駆除できるかを日に当たらない研究者と共同するはみ出しもの警察チーム、そして化物との戦闘シーンひとつ取っても手に汗握る良き時間を過ごせました。

 

その2

テスカトリポカ

著:佐藤究

 

こちらは確かTLで一時期話題になっていたので、手に取ったのがきっかけです。

 

あらすじとしては、メキシコのカルテルに君臨した最強ファミリーの一角である麻薬密売人のバルミロ・カサソラは、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーと出会う。そして、悪魔の二人は新たな臓器ビジネスを実現させるため日本へ向かった。

一方、 川崎で生まれ育った天涯孤独の 少年・土方コシモは、バルミロに見いだされ、彼らの犯罪に巻きこまれていく。海を越えて交錯する運命の背後に、滅亡した王国アステカの恐るべき神の影がちらつく…

 

アステカ神話に登場する神の名を冠した古代文明の儀式が物語の背景に大きく関わっています。その神話的要素に犯罪組織や臓器売買という陰惨な世界と絡み合う。メキシコ・日本・時間が切り替わるシーンが多く、最初の物語導入が少し退屈に感じるかもしれません。ただ、各種布石(ザグルゼム)が、日本にシフトしたときにその面白さのラインが揃います。国内での高速道路やアジトでの戦闘描写や古代文明の闇儀式、そこに関わった各種人物がまるで神の手のひらで動かされている何とも言えない不思議さが面白さを膨らましてくれている。

 

 

その3

食事や飲料をテーマとしたアンソロジー

 

新しい作家や作品を探すときに、アンソロジーをよく利用しています。十人十色な作者が同じテーマとして、書くアンソロジーを読むことで、その人の文体や好みの新発見ができる点にて重宝しています。

今回は"喫茶店""ビール"の2つのテーマのアンソロジーがお気に入りでした。

アンソロジーということもあり、通勤通学の時間やちょっとした休憩時間に、そのテーマの作者作品を体感できます。今回選んだ作品は長くても10ページ前後ぐらいなので、気になるタイトルから読んでいったり、移動時間のときは飛ばした作品を読むなどのスタイルの自由さも◎

 

『おいしいアンソロジー 喫茶店』からの僕の3選

・コーヒーとの長い付き合い

著:阿刀田高

お酒を使ったアイリッシュコーヒーの描写が、鼻腔から想起の香りが吹き抜ける

(エセ文学表現)

 

・初体験モーニング・サーヴィス

著:片岡義男

二日酔いの中出会った喫茶店で体験するモーニングのゆで卵がめちゃくちゃ美味しそうです。

 

・ミラーボールナポリタン

著:爪切男

ナポリタンの描写が美味しそう過ぎて、その日の夕飯は...

 

 

『おいしいアンソロジー ビール』からの僕の3選

・あの日に帰りたいビール腹おじさん

著:大竹聡

ビールを飲むために運動するという未来の誰かの物語

 

・九月の焼きそビール

著:久住昌之

お昼に茶店で、街並みを肴に瓶ビールとこれでいいんだよというテイストの焼きそばを食べるお話。

やたら、めちゃくちゃ美味そうだなぁと胃袋が鳴ったと思ったら、『孤独のグルメ』作者でした。

 

・気がつけば枝豆

著:角田光代

じゃない方の"枝豆"にスポットを当てたお話。僕は枝豆に頭が上がらないぜ。

 

番外編は後述にありますぞ〜〜〜〜

 

 

今週のお題「読んでよかった・書いてよかった2024」

↑ドタバタしてお題変わっちゃってた...

   

 

番外編

『仮面ライダーBLACK SUN 異聞/イブン』

元々の実写作品のノベライズなので番外編として、入れました。

500P超えの小説も200Pを迎えたあたりから、本を読み進める手が止まらず良い読書時間!映像本編から好きであったクジラ怪人にも名前がつけられてて、ブラックサンも感謝のギャルピースです。

小説だからこそできる映像枷がないブラックサンやシャドームーン、関連人物のもう一歩踏み込んだ描写やあの石に関しての背景や納得させる力がすごく良い。その補強が脳内想像を強く思い浮かばせ、加速度的に読ませてしまう。

 

以下、本編の核となる部分を記載しています。

ご注意ください。

 

この小説は仮面ライダーBLACK SUNの丁寧な補完だと考えています。

本編映像での出来事をこの角度からはどう見えるんだろうかの多角的な視点が物語の奥行きを強めています。

オリジナル要素であるヤマトヒメノミコトに関しても、元々の仮面ライダーBLACK自体も二人の人間が特殊な石(キングストーン)を巡る神話めいたものでもあるので、いいスパイスとして作品により深みを与えていた気がしています。

 

加えて、クジラを好きなのもあるのですが、後半のコウモリ、ミノを含めた3人の会話が良い。状況は悪いし、どうなるか分からない、だけど生きてるし、喋ったり愚痴をこぼしたりもするミクロな視点がカイジンや人間の生命としての営みさを感じてすごい好きですね。

 

特に僕がいいなぁと思った作中に出ていた本とその状況について考察めいたものを残しておきます。

 

①2022年の現代編にてタクシー営業所内にて南光太郎が白井静馬ことクジラ怪人との戦闘前に読んでいた本

『ルバイヤート』著:ウマル・ハイヤーム

これは生きることの儚さや嘆き、憧れを含めた人間讃歌をテーマとした詩集です。

 

クジラは全盛期よりも老いており、人生に諦めというよりも死に場所や自身の生命としての何か着地点を探していた。

結びつけて考えると、クジラ自身の生き様や考えにも通ずる部分があり、終盤ブラックサンを復活させるために自身の命を犠牲にしたのは、彼自身が成し得なかった怪人としての生まれ変わった姿や力にどこか憧れがあったようにみえる。

それはあくまで南光太郎という人物に期待ほど大層なものでなく、クジラのささやかな祈りなようにもみえる。その塩梅が、クジラという魅力さを一層引き出しているし、好き。めっちゃ好き。

 

②2022年の現代編にてクジラとセクターの力により復活した南光太郎が秋月信彦最終決戦前に読んでいた本

『シッダルク(シッダールタ)』著:ヘルマン・ヘッセ

求道者の悟りの境地に至るまでの苦行や経験を通じて、最終的にはすべてをあるがままに愛するという本です。

 

南光太郎自身のこれまでの50余年を通じたからこそ得られた答えを探す決戦に挑む姿が本と少し重なります。

後述の本を渡すという意味では、終盤でも明かされるが、葵にはもう自分のトドメをお願いしていた背景があるため、恐らくこの時点で図書館に行く約束を形を違えど守りたかったようにも考えられる。

 

③葵のために『古代国語の音韻に就いて』著:橋本進吉を薦めたことにもに触れたい。

昔は現代よりはるかに多くの音が言い分け,聴き分けられていた。万葉仮名に整然たる使い分けがあるのはその名残からであり、発見者自らが発見プロセスを辿り、その学問的意義を第三者に分かりやすく開示した本です。

 

本の中身と結びつけると2つの意味があるのかなと考えました。

一つは会話という人間の営み。尊敬なのかは分からないが和泉葵のこれまでの14年間をさよならしてしまう南光太郎に知って欲しかった。特殊仮名の発見者でもある作者のようにこれまでの自分のことを知って欲しかったことにも重なってみえてくる。

 

もう一つは物語の背景の創世王について意味があると考えました。

かつてカイジンはたくさんいたし、『古代国語の音韻に就いて』を例に取ると昔々は様々な今には残らない文字の音があった。

カイジンに置き換えると、かつての歴史舞台の裏側に創世王はおり、今も創世王という存在を巡っては消えてを流転している。

文字や創世王という枠組みを第三者に知らしめる存在として葵が「Regalia・of・Xenogenic リゲイリア・オブ・ゼノジェニック」として異種間の王、ここでは人が全員カイジンの要素を持っていることを発信する存在であることを示しているようにも強引だが、上述のように考えました。

冒頭のサミットや国連のスピーチ、葵の口からいくら年月がかかっても話したいことを、聞きたい人に届けるために彼女は問いかける。

葵という人物はこの世界の発信的な役目であるのは割といい線いってるのかなぁ……

 

僕的な超名作である同著者の『仮面ライダー1971-1973』よりも、仮面ライダーBLACK SUNの脳内映像下地というべきか。

読みやすさという面では、こちらのが読み進めやすいかと思います。