記憶を消して、もう一度あの作品を見たい。もう一度あの驚きの体験をしたい。一度は考えたことありませんか?
自分が好きな作品や経験をしている人がいると、初回のあの感動や体験を、君は味わえる立場にいるのがひたすらに羨ましいし、むしろ嫉妬すらしてしまう。
例えば推理小説だ。
本格ミステリ作家の綾辻行人先生の代表作とも言える『十角館の殺人』を読んでしまった記憶を消して、あの驚きと騙される快感をもう一度味わいたい。
ミステリ系だと映画の『ユージュアル・サスペクツ』も初見でもう一度見たい。
特にミステリーものは、犯人を知ってから、再度見直すことに、初回の驚きを超えることは難しいと思っていて。
最近だと、『アベンジャーズ / エンドゲーム』をもう一度記憶を消して見たい。ケヴィン・ファイギ監督自らが驚きを大切にしたいとした作品を、初回ならではのドキドキと驚きの連続のエンタメを全力でぶつけてくる体験は今でも心に残っているからこそ、初回をもう一度体験したい。
そんな絵空事のようなことをふと考えることがあります。どうやったらできるのか。具体的には何をすれば、初回の体験を再び味わえるのかを考えました。
第一に思いついたのは、歳を取って忘れる。
人の記憶にもよるが、忘れてしまえば、それは初体験と同じなのではないか。時間が解決してくれるとはよく言ったものだが、時間の経過は人の記憶を薄れさせ、いずれはないものにできるはずだ。人の記憶は曖昧で、思い出せそうで思い出せない場合がある。そんなときに作品や体験をすれば、初めての感動が再起するのではないか。
しかし、人の記憶が曖昧故に、初めての感動に至るまでの思考プロセスが残っている。初めての体験というより、初めての体験をしたことを思い出すという少し異なる体験になる。リメイク作品を見て、リメイク前の原作作品を思い出すような。例えば『シン・ゴジラ』による、得体も知れない何か大きい生物という怪獣との出会いは初代『ゴジラ』の当時の人たちが感じた感情に近いものなのではないか。
よくよく考えると、思い出せない状況というのは作品を見るという行動自体が起きない可能性がある。自らが主体的に初めての体験を味わうというよりは、気づいたら記憶が消えかけて、再び初回の体験をするという受け身的なことになる。しかも作品を見るというアクションをしなければ、何もはじまらない。かといってタイムカプセルのように、何十年後にリマインダーをセットするのも違う気がする。
ここからは、荒唐無稽で少しSFチックな僕の脳内妄想になるかもしれない。
人の記憶を別媒体に移すことはできないのだろうか。スマホのデータをクラウドに。その後、スマホの同データは削除する。脳の記憶のデータ化だ。
なんとなく思いつくのが、映画『マトリックス』のようなプラグを人間に挿して、脳の記憶とデータを変換するコンバーターを使い、パソコンのように脳の記憶をCtrl+X(切り取り)して、別媒体にCtrl+V(ペースト)できないのか。
これができたら、最高じゃないですか。
いつでも、初体験を好きなときに真の意味で再現が可能です。調べるとマウスの実験では記憶の書き換えに成功しているそうで。いずれSFでなく、実現可能な世界が訪れる可能性はゼロではない未来が。
ただ、人の記憶そのものをデータ化できるということはコピペでクローン記憶を様々な人に共有することができるし、そもそも技術的に脳が他人の記憶を共有した際に起きる想像もつかない問題を含めた倫理的な問題はある。
逆にいえば相手を理解するための補助的なツールという立ち位置もあるだろう。連絡先交換をする感覚で、記憶を交換する。もはやトークすらいらないのかもしれない。コミニケーションが大事だー!という社会を覆すような。未来の人は「え、記憶共有しないで話してるとか、旧石器時代の人かと思いましたよ!」という社会もあるかもしれない。未来は暗くよりも、明るく想像するのが面白いし。
書いてて思いましたが『パシフィック・リム』の操縦士の精神を共有するドリフトっぽさを感じる。
話がSFになってしまったが、現状手っ取り早く初めての体験を100%同じで再現することはやはり無理だった。
継続することや繰り返す面白さがあるのはもちろん楽しい。好きな作品は何回見ても面白いし、気づかなかった発見もあるため、好きな本は年に最低でも一回は読み返したりする。同じ映画や本の作品でも、本人の心理や状態が変わるから、常に更新し続けていく楽しみ方も好きです。楽しさのベクトルが違うだけで、楽しいことには変わりない。
あの驚きを一回しか味わえないあの体験は、一度きりなんです。大人になるにつれて、慣れ親しんだものに固定化してしまう考えも悔しいが、否定はできない。そっちのが楽だし、人間も僕も怠ける生き物だし。だからこそ、常に新しいものや体験を追い求めたい。知的好奇心を常に求めることが好きで、何より僕はそれが面白い。
純粋な感情こそ、あーだこーだ考えたことよりも最強なんだ。
経験上ですが、知的好奇心や新しいものに触れている人は、めちゃくちゃ若く見える。例えば高校や大学の教育関係の人たち、実年齢聞いたりすると大抵若い。学生という圧倒的に新しいものに触れる機会が多い人と関わることで、常に新しい環境が人を若くさせているのかもしれない。
早く未来が来てくれ。
「いや僕たちが作るべきだ」とか言ったのがかっこつきますね。
繰り返し年1で読み返したい作品を挙げるとするなら、『ハリネズミの願い』です。友達の大切さが心に問いかけてくる大人の童話。